山梨学院大学陸上競技部監督 上田誠仁さんインタビュー

箱根駅伝を親子で観戦しよう!
新春の箱根路に繰り広げられる筋書きのないドラマ

お正月のテレビ番組といえば大学対抗の「箱根駅伝」。2017年はどんなドラマが繰り広げられるのでしょうか。今季、学生3大駅伝の出雲で2位、全日本3位と好結果が続いている山梨学院大学の上田監督に、31年連続出場となる箱根駅伝にかける思い、見どころなどを聞きました。

自信と誇りのユニフォームに自覚と責任のゼッケンを縫い付けて団結と絆の襷をかけて走る

ueda01
山梨学院大学スポーツ科学部スポーツ科学科教授 山梨学院大学陸上競技部監督 上田誠仁さん (プロフィール) 1959年、香川県生まれ。順天堂大学時代に箱根駅伝で5区の区間賞獲得。香川県中学校・高等学校教員を経て、26歳の若さで山梨学院大学陸上部監督に就任。2017年で箱根駅伝31年連続出場、うち総合優勝3回。

 駅伝では、ユニフォームとゼッケンと襷を身につけて走りますが、それぞれ意味があります。

 ユニフォームは、袖を通すとき、誇りと自信を持てる自分になっているかが問われるもの。ユニフォームを身につけるその日まで、長い時間をかけてトレーニングしていくわけですからね。

ueda03 そして、そのユニフォームにゼッケンを付ける。1区は1、2区は2と、ゼッケンの番号は任された区間を表しています。つまり、ゼッケンは、自分の務めを果たす自覚と責任を表しているわけです。

 最後に襷(たすき)。山梨学院大学の襷は、甲斐絹織(かいきおり)という地元の伝統工芸の絹織物を使っています。プルシアンブルーの襷として全国の方々に知られるようになりました。この甲斐絹織は、糸を先染めして、縦糸と横糸で織り上げていくものですが、その作業が駅伝に似ていると考えています。

ueda04 箱根駅伝は一年に一度。365日という時間軸は、どの大学にも、どの選手にも平等です。選手一人が一本持っている縦糸の時間軸を持ち寄ります。そこに織り込む横糸は日々の努力。エントリーした正選手10名だけが努力するのではなく、マネージャー、下級生、エントリーできなかった選手も一緒に、全員で織り上げていく。それが襷。ですから、襷は、チームの団結と絆の象徴といえるのです。

 箱根駅伝は、単にA地点からB地点までを走る速さを競うだけではない。個人技と、チームの団結と、そして他大学のライバルたちとの切磋琢磨。そこにドラマが生まれます。こういう視点で見ていただけるとうれしく思いますね。

「僕の箱根駅伝は終わりましたが、僕たちの箱根駅伝は、まだ終わっていません」

襷の意味を小学生に説明する上田監督
襷の意味を小学生に説明する上田監督

 箱根では、チームエントリーは16名以内。区間エントリーの正選手10名と補欠選手6名以内となります。そして、選手のコンディションによって、往路・復路とも当日のエントリー変更ができるのは4名までです。

 陸上競技はタイムで明確に勝負が決まる、過酷な世界です。4年間がんばっても箱根に出場できない選手はたくさんいます。じゃあ、そういう選手は必要ないのかというと、そうではない。ケガで戦列から離れてもマネージャーとして卒業までサポートするなど、箱根駅伝という共通目標に向かってチームでがんばっていきます。そういう風土を作ることに、私は心を砕いてきました。

 数年前、4年目でやっと出場できるレベルまで到達したA君という学生がいました。でも、私は、さまざまな要素を考慮して、直前で彼をエントリーからはずしました。毎年あることです。しかたがない。でも、私も心配でした。もう練習に出てこないんじゃないか、布団をかぶって泣いているんじゃないか……。

 ところが、翌日の早朝、そのA君が誰よりも早く起きてトラックを走っているわけですよ。私は冗談めかして「お前、布団かぶって泣いてたんじゃないのか?」と声をかけました。するとA君は「監督、何言ってんですか」と笑って切り返してくる。そして、「僕の箱根駅伝は昨日で終わりましたけど、僕たちの箱根駅伝はまだ終わってませんから」と、さわやかに言ったのです。

 A君自身がチームのひとりとしてどうあるべきかを考えて行動に移したということが、何よりも尊いと思いました。A君の行動を見て、チームはいっそう団結しました。そういう仲間の気持ちも乗せて走るのが駅伝なんです。

ueda05 今年は、襷を新調しました。ニャイロ、佐藤など主力メンバーの調子もいい。前哨戦となる出雲や全日本でも3位、2位といういい結果が出ています。思い切ってチャレンジしたいと思います。山梨学院大学を応援してください!